Vol. 3 海外の生産者との協働 特定非営利活動法人シャプラニール=市民による海外協力の会
一人ひとりの可能性が開花する、貧困のない社会を目指し、南アジアで支援を続ける認定NPO法人シャプラニール=市民による海外協力の会。2015年以来、エイブルアートとコラボレーションしジュートバッグを制作しています。そして、団体設立から50周年を迎える2022年、エイブルアートを通して佐々木英明さんと記念の製品を制作しました。フェアトレード部門の小川晶子(おがわ・あきこ)さん、バッグの原画を描いた佐々木英明(ささき・ひであき)さん、佐々木さんが所属する社会福祉法人なのはな会はまゆうの島貫楽(しまぬき・がく)さんに話を伺いました。
特定非営利活動法人シャプラニール=市民による海外協力の会
南アジアを中心に活動する日本の国際協力NGO。1972年、「バングラデシュ復興農業奉仕団」としてバングラデシュへ派遣された日本の青年ボランティアのうちの有志が「本当に役立つ援助とは何か」と考え、帰国後に結成した「HBC(ヘルプ・バングラデシュ・コミティ)」が前身となる。現在はバングラデシュやネパールを中心に教育支援、児童労働削減、防災事業、フェアトレード活動、日本国内の在住外国人の支援などを行い、その活動は多岐にわたる。
生産がエンパワメントにつながるバッグ
ベンガル語で「睡蓮の家」の意味をもつ「シャプラニール」。この言葉を法人名に掲げた認定NPO法人シャプラニール=市民による海外協力の会(以下、シャプラニール)は、1972年、独立直後のバングラデシュを訪れた青年ボランティアのメンバーを中心にスタートしました。発足以降、「市民の立場」から「貧困のない社会を実現する」ことを目指し、バングラデシュとネパール、そして日本を拠点に支援活動を行っています。持続可能な社会をめざしたSDGsでは「誰一人取り残さない」が原則とされていますが、シャプラニールは50年前より大きな支援の枠組みから取り残される人々に注目し、「誰も取り残さない」という価値観を重視しています。その活動の柱は4つ。子どもを対象とした支援、災害に強い地域をつくる活動、日本の在住外国人に向けた取り組み、そしてフェアトレードを通じた生活向上の取り組みです。 エイブルアートも参加するフェアトレードの取り組みは、1974年にスタートし、手工芸品(=クラフト)を通して「つくる人」と「使う人」を「つなげる(=リンク)」をコンセプトに「クラフトリンク」という名前で活動。日本で初めてフェアトレードに取り組んだ団体ともいわれています。なかでもロングセラーはジュートバッグです。インドに次いで、ジュートの生産量が世界2位のバングラデシュ。ジュートは麻の一種で、通気性にすぐれ丈夫な繊維として、バッグやラグなどに利用されています。 「現地の素材で製品をつくり雇用を生み出したことで、女性をはじめとするこれまで収入を得ることが難しかったバングラデシュの人たちが、自らの尊厳や希望を取り戻しています」とフェアトレード部門の小川晶子さんは話します。ジュートバッグは、原画をもとにデザインにおこし、シルクスクリーンでプリント。小川さんは企画からデザイン、制作のコーディネーションなどを担当しています。 エイブルアートとのはじめの協働は2015年でした。クラフト工房La Mano所属の尾崎文彦(おざき・ふみひこ)さん、たんぽぽの家アートセンターHANA所属の山野将志(やまの・まさし)さんの描いた絵がジュートバッグに起用されました。動物や植物といったモチーフの商品は、いまでも人気があるそうです。そして2022年、シャプラニール50周年を記念し、再びエイブルアートを通じて新しいデザインのバッグが生まれました。
製品になったあとも、変化していく絵
新しいバッグには、バングラデシュの村人たちがシンプルで柔らかな線で描かれ、左下にはベンガル語で「マヌシェル アスタェ、マヌシェル パシェ」と書かれています。この言葉はバングラデシュのことわざで「人々を信じ、人々と共に」という意味。一人ひとりの「個」を大事に活動してきたシャプラニールの50年という節目に企画し、デザインされました。原画を描いたのは佐々木英明さんです。佐々木さんは仙台にある福祉施設「はまゆう」に通いながら、動物や人をモチーフに絵を描いています。 制作期間は2ヶ月ほど。今回は「バングラデシュの人たちをモチーフにしてもらえたら」というシャプラニールのオーダーで、複数の写真を参考に、20枚以上の下絵を描きました。そのなかから選ばれた1枚を、さらに丁寧に仕上げて製品の原画となりました。 「下絵のときに描いていただいた作品がとても素敵だったのですが、ジュートの粗い繊維の生地だと、細い線画の表現が難しく、太い線で描き直していただいたのです」と、デザインを手がけた小川さんは、佐々木さんの原画をもとにサイズや色などを試作し、何案ものデザイン案を制作しました。原画は単色の赤い線で描かれていましたが、バッグのデザイン用に青色と白色の2種類でデザイン。一部に色面を足し、人の表現に変化をつけました。 実は佐々木さんは、バッグが完成してからも原画となった絵に、色を塗り足しカラフルな作品に仕上げています。「こちからは何もお願いしていないのですが、20枚ほどの下絵に色を塗り足しています」と着彩した絵を、はまゆうのスタッフ・島貫さんが見せてくれました。 「英明さんが色を塗ると、こんなふうにカラフルになりますが、シャプラニールさんのデザインではまた別のかたちでカバンになり、多くの人に届けられることがうれしいです」と島貫さんは話します。 「カラフルな絵もぜひ何か別のデザインに使用させていただきたいですね」と、次回の商品へのアイデアが触発された小川さん。また新たなグッズが生まれそうな予感です。