Vol. 4 サマーソニックとのTシャツプロジェクト/株式会社クリエイティブマンプロダクション
2000年より続く日本最大級の音楽フェスティバル、サマーソニック(通称、サマソニ)。立ち上げ時より企画運営をしているのが株式会社クリエイティブマンプロダクション(以下、クリエイティブマン)です。同社は2010年よりサマソニの会場で販売されるTシャツをエイブルアートとともに制作。2011年からは東日本大震災のプロジェクトの一環として、Tシャツの収益を被災地へ寄付してきました。なぜ音楽フェスとコラボレーションが始まり、10年以上継続しているのでしょうか。最初に企画した安藤竜平さん、現在グッズの企画とディレクションを担当する東田晴菜さんに話をききました。
株式会社クリエイティブマンプロダクション
サマーソニックのほか、国内外のアーティストのライブやコンサートなどの企画および運営などを行う。プロモーターとして活動していた清水直樹氏(現・代表取締役)により1990年に設立。設立10周年の2000年よりサマーソニックを立ち上げる。以後毎年、東京と大阪の2会場で開催(2020〜2021年はコロナの影響で未開催)。 https://www.creativeman.co.jp/
音楽フェスとの12年以上続くプロジェクト
毎年夏に東京と大阪で開催され、2日間で最大20万人の来場者で盛り上がるサマソニ。各会場ではオフィシャルグッズとして20種類以上のTシャツが販売されます。オリジナルデザインのほかアーティストやキャラクター、イラストレーターらとコラボレーションしたTシャツも販売されますが、そのなかにエイブルアートのアーティストによるデザインがあります。 ▲会場での物販の様子(写真提供(株)クリエイティブマンプロダクション)
協働のスタートは2010年、震災の前年でした。「何かサマソニとして、社会に貢献できる活動をしたいと思っていました」と話すのは、当時社内でグッズのディレクションを担当していた安藤さん。情報を集めていくなかで、たまたま同僚の家族を通して紹介してもらったのが、エイブルアート・カンパニーでした。 「2010年はテーマを決めて5名のアーティストに描いていただき、一般投票で選ばれたデザインをTシャツにするというコンペ形式で行いました」 選ばれたのは溝上強(※2021年までカンパニーアーティストとして活動、現在は契約終了)さんの絵でしたが、そのほかのアーティストの作品もすべてサマソニの会場で展示されました。 ▲協働をスタートした2010年に選ばれた溝上強さん(当時、カンパニーアーティスト)の作品
そして翌2011年に東日本大震災が起きます。エイブルアートでは震災直後より、被災した福祉事業所やアーティストを中心に支援していく「タイヨウプロジェクト」を開始。被災地に対してサマソニとしても何かできないか、と考えていたなかタイヨウプロジェクトに共感。Tシャツの売り上げを被災地へ寄付するというかたちでコラボレーションのかたちを続けました。寄付金は原価・ロイヤリティを除くすべて。タイヨウプロジェクトが一定の役割を終えて活動を終了することになったあともプロジェクトの名前は残し、東北に限らず、熊本地震や西日本豪雨の被災地、コロナ禍で困窮した音楽活動などさまざまな団体へ寄付しています。
障害のある人が特別ではない
2015年までグッズを担当していた安藤さんは「2013年にMr.Childrenさんが出演の際にタイヨウプロジェクトのTシャツを何枚も購入されて、うれしかったのをよく覚えています」と印象的だった出来事を振り返りました。 現在グッズを担当する東田さんは「Tシャツにするときは色数が限られるので、私自身も描いていただいた絵をいかしながらデザインに落とし込みます。会場で購入される方々は、そのTシャツがチャリティかどうかは関係なく選ばれる方が多いので、私も自分が担当したデザインが選ばれたときはうれしいです」と話します。 ▲安藤さん思い出の1着、マスカラ・コントラ・マスカラさんのデザイン(2013年) ▲東田さんが初めて担当した上村福銖さんのデザイン(2020年) 2020年、サマソニでは国際的な限定フェスとして「スーパーソニック」を企画していたなかコロナ禍で延期に。ただタイヨウプロジェクトとのTシャツ制作はやめることなくオンラインで販売を続けました。 こうして2023年までに作品が採用されたアーティストは15組以上、 デザインされたTシャツも10種類以上にのぼります。コラボレーションを続ける理由について安藤さんは「会社として社会貢献をしていきたいというのが大きい」けれど「『障害のある人が特別』とは考えていない」と言います。 「僕たちも音楽の仕事に携わっていますが、根底には芸術を支援していきたい、という思いがあります。その先に寄付がある。『障害のあるアーティスト』だからではなく、2010年にたまたま出会ったのがエイブルアート・カンパニーだったんです」 エイブルアートのアーティストにとっても、多くの人が訪れるフェスにTシャツの絵柄で参加できることは大きなチャンスです。「音楽が好きなアーティストも多いので、フェスのような大きなイベントで自分の作品が販売されることは、励みになっています。サマソニでの仕事がほかの仕事につながることもあるんです」と、エイブルアート・カンパニーの中塚翔子さん。 ▲今年のサマソニで販売されるWanchaさんのデザイン(2023年) 最後に今後の展望として「フェスに限らず日本の音楽ライブ産業全体として、いろいろな人に楽しんでもらうにはできることがまだまだある」と安藤さんは語りました。サマソニでは車椅子で来場する人などに向けた「ハンディキャップエリア」を以前より設けていますが、海外のフェスだとステージ脇に手話通訳がいて歌詞を翻訳していることもあり、そうした取り組みはまだ国内のライブで例が少ないそうです。 「海外のヘヴィメタルバンドのライブで、歌詞がリアルタイムで手話に訳されているのをYouTubeで見て衝撃を受けたことがあります。音楽をもっと多くの人に楽しんでもらえる工夫はこれからですね」と話します。 [取材・テキスト]佐藤恵美