Vol.1「みんな違うこと」を認め合う文化を体現/MHDモエ ヘネシー ディアジオ株式会社
2017年より、NPO法人エイブル・アート・ジャパン(東京事務局)の法人会員・サステナビリティ/CSR活動パートナーとして、エイブルアート・カンパニーと継続的に事業を展開しているMHDモエ ヘネシー ディアジオ株式会社。歴史ある洋酒を保有するフランスを拠点とする企業・モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)のグループです。サステナビリティ/CSR活動を担当する牧陽子(まき・ようこ)[Public Affairs, Corporate Communication & Sustainability シニアマネジャー]さんにお話を伺いました。
【MHDモエ ヘネシー ディアジオ株式会社】
ラグジュアリー市場をリードするLVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン グループのワインズ&スピリッツ事業を担うモエ ヘネシーと、スピリッツを中心に多数の洋酒ブランドを持つディアジオとの合弁会社。歴史と伝統あるシャンパン・ワイン・スピリッツのラグジュアリーブランドを多数保有し、世界を代表する優れたポートフォリオを駆使して、高級洋酒マーケットをリードし続けている洋酒輸入販売会社。 ▼企業サステナビリティ・CSRページ
アーティストと社員の交流プログラムから、スカラシップへ
MHDモエ ヘネシー ディアジオ株式会社(以下、MHD)でサステナビリティ/CSR活動がスタートしたのが2016年。牧陽子さんを中心に6人のメンバーがパートナー先をリサーチし、20以上の団体のなかから、エイブル・アート・ジャパン(以下、エイブルアート)とほか1団体を選びました。牧さんはその理由について、「アートと障害、両軸へのサポートという点、さらにエイブルアートさんの活動は、デザイン性が高く、前向きでポジティブな支援というイメージでした」と話します。 はじめての企画は2017年7月、社員とアーティストの交流イベントでした。広い貸会議室で、エイブルアートに所属するアーティストの作品を展示・販売しながら、アーティストトークや軽食を提供。CSR/サステナビリティプロジェクトメンバー以外にも10名ほどの社員が当日のボランティアスタッフとして名乗りをあげたほか、終業後に立ち寄る社員も多くいました。その数ヶ月後、2度目の交流イベントとして、森美術館でのアート鑑賞とホテルのレストランでお食事を一緒に楽しみながらテーブルマナー講座を企画。翌2018年にはギャラリーでのアート鑑賞&交流会、2019年には LVMH子ども・アートメゾン(福島)でアートイベントなどを通し、アーティストと社員の交流を深めていきます。外出の機会が少ないアーティストにとっても貴重な経験となりました。 こうしてはじめの3年間は、イベント形式での交流を中心にしていましたが、「より直接的にアーティストのサポートにつながるほうが良いのでは」という社長の提案で、2020年からは「MHD アーティスト奨学金プログラム」へと舵を切ります。これは、エイブルアートに所属するアーティストのなかから奨学生を選出し、制作や展示の支援を行うスカラシップです。2020年は4名のアーティストを選出、2021年も同じく4名のアーティストが選ばれ、社内での展覧会を実現しました。
社員が自分ごととして、社会貢献できる場所
MHD のサステナビリティ/CSR活動は、マーケティングやファイナンス、HR、営業などさまざまな部署の担当者が集まったチームです。社会貢献は社員一人ひとりの主体性を尊重するという理念のもと、自主企画を実現できる仕組みとしても機能しています。6人でスタートしたメンバーも、いまでは30名近くまで増えました。そのなかで、エイブルアートのチームは5人(2021年)を中心に動いています。障害のある方と接する機会がこれまでほとんどなかったという、チームメンバーの一人、関西営業部の神能忠寛(じんの・ただひろ)さんは「スカラシッププログラムを通して、言葉ではない表現の形が素敵だと知りました」と言います。 一方、アーティストにとってもこのスカラシッププログラムを通し、自身の新たな可能性を見出す機会になっています。2021年に選出されたアーティスト・Seiyamizuさんは、普段は主にモノクロの作品を制作していますが、スカラシップでiPadを購入しデジタル作品に挑戦しました。「デジタル画でさまざまな色彩を試せるようになり、自分の絵を再発見した」と表現の幅が広がったことを実感。またコロナ禍で飲食店への応援をテーマにレストランに取材し、そのメニューを作品にしたYOUさんも「地域の方とのコミュニケーションが生まれ、さらに創作意欲が高まった」と語りました。
ただし、エイブルアートとの活動が5年目になり、「継続の意義や重要性が社内で問われる場面もある」と牧さん。それでも毎年少しずつメンバーが入れ替わり、プロジェクトが変容することで、社内への周知にもつながっています。牧さん自身は、「『みんな違って、みんないい』を知ることができる」とエイブルアートの活動に強く共感し、継続の意義を感じています。 「エイブルアートのアーティストのパワーある表現は、前提など関係なく一人ひとりが違うことが大事だと、体現されているように感じます。日常のコミュニケーションでは、ときに自分の価値観が正しいものとして進める場面もありますが、そうした表現に触れると、これまで自分が信じていた価値観ってなんだろう、と身を持って感じるのです。そのことを多くの人に知ってほしい。だから続けたいと思うのです」と話します。 [取材・テキスト]佐藤恵美